イギリスのISA(Individual Savings Account)は「最強の非課税投資制度」とも呼ばれ、日本の新NISAが目指す理想形と評価されることも少なくありません。 それにもかかわらず、日本ではISAと同等の制度が導入されていません。 本記事では、日本がISA型制度を導入できない理由を、税制・政治・社会構造の観点から詳しく解説します。
そもそもISA型制度とは何が違うのか
ISA型制度の最大の特徴は、生涯上限のない完全非課税という点にあります。 毎年一定額まで投資でき、その枠は毎年リセットされ、過去に積み立てた資産がいくら増えても課税されません。
一方、日本の新NISAは非課税期間こそ無期限化されましたが、生涯投資枠として1,800万円の上限が設けられています。 この違いこそが、日本がISA型制度を導入できない理由を考える出発点となります。
理由① 税収減少への強い警戒
日本がISA型制度を導入できない最大の理由は、将来的な税収減への恐怖です。
日本の金融所得課税(約20%)は、国にとって安定した重要な税源となっています。 ISA型制度を導入し、投資利益を無制限に非課税にしてしまうと、将来の税収が大きく減少する可能性があります。
特に日本は、
- 少子高齢化の進行
- 社会保障費の増大
- 国債残高の拡大
という厳しい財政状況にあり、「税金を取りやすい金融所得」を手放す決断が極めて難しいのです。
理由② 富裕層優遇への政治的反発
ISA型制度は、理論上は誰でも使える制度ですが、実際に大きな恩恵を受けるのは投資余力のある富裕層です。
日本では「格差」や「富裕層優遇」に対する世論の目が非常に厳しく、
- 「金持ちだけ得をする制度」
- 「庶民には関係ない」
といった批判が起こりやすい土壌があります。
そのため政治的には、上限を設けた新NISAのような「限定的な優遇」にとどめる方が、合意形成を取りやすいのです。
理由③ 年金制度への依存体質
イギリスでは「公的年金だけでは老後は不十分」という認識が社会に定着しています。 そのため、国が投資による自助努力を強力に後押しするISA制度が受け入れられてきました。
一方、日本では長らく
- 国民年金・厚生年金への信頼
- 終身雇用モデル
が前提とされてきました。
結果として、「投資は補助的なもの」という意識が強く、ISAのような国民総投資制度を導入する必然性が弱かったのです。
理由④ 金融リテラシーへの不安
日本政府が慎重な姿勢を取る背景には、国民全体の金融リテラシーへの不安もあります。
ISA型制度は自由度が高い反面、
- ハイリスク商品への集中投資
- 短期売買の乱用
といった行動を取る人が増える可能性もあります。
そのため日本では、商品制限や投資枠管理を行う新NISAの方が「事故が起きにくい制度」と判断されているのです。
理由⑤ 官僚制度と段階的改革の文化
日本の制度改革は、基本的に小さく始めて徐々に拡大するという特徴があります。
NISAも、
- 一般NISA
- つみたてNISA
- 新NISA
と段階的に進化してきました。
ISA型制度のような一気に完成度の高い制度を導入することは、日本の官僚制度・政治文化と相性が悪いのです。
それでも日本はISA型に近づいている
重要なのは、日本が「ISAを拒否している」のではなく、ゆっくりとISAに近づいている点です。
- 非課税期間の恒久化
- 投資枠の拡大
- 枠の再利用(復活)
これらはすべて、ISA型制度を強く意識した改正といえます。
まとめ:日本がISA型制度を導入できない本当の理由
- 税収減への強い警戒
- 富裕層優遇に対する政治的リスク
- 年金依存型社会からの脱却が遅れた
- 金融リテラシーへの配慮
- 段階的改革を好む制度文化
日本がISA型制度を導入できない理由は「やる気がないから」ではなく、社会構造そのものにあります。 新NISAは、その制約の中で生まれた現時点での最適解といえるでしょう。

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