かつて夢物語だった「鉛を金に変える」という錬金術が、現代の物理学によって一部現実になろうとしています。2025年5月、スイス・ジュネーブにある欧州原子核研究機構(CERN)の研究チームが、鉛から金を生成する実験に成功したと発表しました。
鉛から金を作る驚きの技術とは?
この実験は、CERNが保有する大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を使って行われました。LHCは、粒子をほぼ光速まで加速し衝突させることで、極限状態の物理現象を再現する装置です。
研究チームは、鉛イオン同士を「超周辺衝突(ultraperipheral collisions / UPC)」と呼ばれる特殊な方法ですれ違わせ、接触せずに非常に強力な電磁場を発生させました。これによって、片方の原子核が変化し、金(Au)の原子核が生成される現象が観測されました。
実用化は可能?錬金術の夢は叶うのか
この研究は非常に画期的ですが、生成された金の量は極めて微量であり、実用的な金の生産方法としては現実的ではありません。また、生成された金の原子核はすぐに崩壊するため、金属として取り出すことも不可能です。
とはいえ、元素変換が現実に起きたという点で、物理学的な意義は非常に大きく、「錬金術が科学で一部実現した」とも言えるでしょう。
科学的ブレイクスルーとしての意義
今回の成果は、素粒子物理学や原子核物理の研究をさらに一歩進めるものであり、将来的には他の応用技術への展開も期待されます。論文は2025年5月7日付けで、『Physical Review C』誌に掲載されました。
このように、夢物語とされてきた錬金術が、今や物理学の手によって部分的に実現されつつあります。今後の研究の進展からも目が離せません。
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