米国の「SLR規制(Supplementary Leverage Ratio:補完的レバレッジ比率)」は、銀行の健全性を確保するための重要な規制のひとつです。この記事では、SLRの仕組み、背景、意義、そして銀行業界への影響について詳しく解説します。
SLR(補完的レバレッジ比率)とは?
SLR(Supplementary Leverage Ratio)とは、資産のリスクに関係なく、全資産に対して一定の自己資本を保有することを義務づける規制です。リスク加重資産ではなく、総資産ベースでレバレッジの健全性を管理するのが特徴です。
この規制は、国際的な銀行規制である「バーゼルIII」に基づいており、特に米国の大手銀行(G-SIBs:グローバルなシステム上重要な銀行)に対して強化された基準が適用されています。
SLRの計算式
SLRは、以下の式で計算されます:
SLR = Tier 1 Capital ÷ 総エクスポージャー
- Tier 1 Capital:普通株や開示済み利益などの高品質資本
- 総エクスポージャー:バランスシート上の全資産に加え、一部のオフバランス資産(デリバティブや担保付き貸出など)も含まれる
規制水準
SLRの最低基準は以下の通りです:
- 一般的な銀行:3%以上
- G-SIBs(大手銀行):最大5%以上の強化基準が適用されることもある
導入の背景と目的
SLRは、2008年のリーマンショック後の反省から生まれた規制です。多くの銀行がリスクを過小評価し、過剰なレバレッジを抱えていたことが金融危機の一因となりました。
SLRの目的:
- リスク評価が甘い資産を含めて全体のレバレッジを制限
- 銀行の破綻リスクを低減
- 金融システムの健全性と透明性を高める
コロナ禍における一時的緩和措置(2020年)
パンデミックによる金融市場の混乱に対応するため、FRB(米連邦準備制度理事会)はSLRの一部を緩和しました。
- 米国債と準備預金(Fedへの預け金)を一時的に総エクスポージャーから除外
- これにより、銀行はより多くの国債を保有し、流動性供給に貢献できるようになりました
この緩和は2021年3月末で終了し、その後の恒久的な見直しが議論されています。
SLRが銀行経営に与える影響
メリット
- レバレッジ過剰を抑制し、金融の安定に貢献
- 銀行の自己資本を強化し、危機時の耐性を向上
デメリット
- リスクが低い資産(例:米国債)も制限対象となるため、収益性が低下する恐れ
- 金融仲介機能に制約を与える可能性
現在の課題と今後の展望
SLRは一律の資本規制として有効ですが、近年の金融政策との整合性が課題となっています。
- FRBの量的緩和政策により、銀行が準備預金を大量に保有
- しかしSLRではこれらも総資産に含まれるため、銀行のバランスシート拡大が制限される
今後、低リスク資産を除外する恒久的措置の是非など、ルールの見直しが注目されています。
まとめ
SLRは、リスクに関わらず銀行の全資産に対して自己資本を求める規制であり、金融の安定性確保に大きな役割を果たしています。コロナ禍での緩和措置や金融政策との整合性をめぐる議論からも、今後の改正や柔軟な運用の動向に注目が集まっています。
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